以下は、購入の手続きがやや複雑なオフィス用什器「商品A」について、メールでお問い合わせを受けたスタッフの対応例です。
ご担当者様
商品Aの購入を検討しています。
購入する場合の方法、流れを教えていただけますか。
xxx様
お世話になっております。
株式会社xxxのxxxです。
商品Aの購入方法について
ご案内申し上げます。
商品Aの購入にあたっては、
まず、設置場所のスペース面積と
設置のための作業スペース、
搬入ルート(玄関スペースとエレベーター有無等)を
確認した後、お見積書を提出させていただきます。
設置場所の条件によっては、
ご導入いただけない場合がありますので、
予めご了承ください。
お見積書の内容に問題がなければ、
お客様よりオフィスの管理会社様に設置の
申請手続きをしていただきます。
申請の手続きには、商品Aの設置場所が
書かれたオフィスの図面が必要となりますので、
こちらはお客様側で事前にご用意ください。
また、オフィスの管理会社様より、
商品Aに関する書類を求められることがありますので、
場合によっては、準備する必要がありますので、
ご注意ください。(弊社側でサポート可能です。)
その後、設置の日程を調整させていただき、
日程の決定と同時にご注文確定となります。
(ご注文確定は、原則キャンセルをお受けできません。)
以上が商品Aのご購入方法となります。
何卒、よろしくお願いいたします。
顧客の質問に対して、正しい手順や注意点を伝えています。ですので、内容自体に間違いはありません。けれども、大きな改善の余地があります。
顧客対応において最も意識すべきことは、相手の気持ちがどうなるか
顧客対応時は、ついつい「正しいことを伝えること」や「間違ったことを伝えないこと」に意識が向きがちです。その意識は、必要なことではありますが、最も大切なことではありません。
一番大切なことは、「相手の気持ちがどうなるか」を考えて対応することです。そのことを踏まえると、上の例は典型的な良くない例です。「正しいことを伝える」という意味では、合格点かもしれませんが、相手の気持ちに配慮した対応とはいえません。
例のメール文は、とても読むのに苦労します。理解も大変です。このような文面では、せっかく顧客が購入を検討してくれているのに、「ちょっと面倒そうなので、また時間がある時に確認しよう」と、購入を保留にしてしまうかもしれません。
商品に興味を示している顧客が購入を保留するというのは、対応の結果としては最悪です。価格や性能等に大きな差がない競合他社がある場合、その競合他社の商品を購入するという結果になるかもしれません。
内容がどんなに正しくても、伝え方や伝える内容が不適切では本来の目的は果たせません。本来の目的は、例の場合なら、「自社の商品を購入してもらうこと」です。目的を達成するためには「相手の気持ち」を意識した対応を心掛けることが大事です。
顧客対応において、「正しさ」は最重要ではありません。最も大事なことは「相手の気持ちがどうなるか」です。「正しいことを伝えること」や「間違ったことを伝えないこと」は、そのゴールを目指すための通過点の一つです。
「こういう気持ちになってもらいたい」=顧客対応のゴール
顧客対応時には、「相手にどういう気持ちになってもらいたいのか」をしっかり考える必要があります。考えた内容が、顧客対応における目標であり、ゴールです。
以下は、一般的な目標設定の例です。
「この商品を買いたい」
購入後
「このブランドを買って良かった」
クレームへの応対
「今後も、この商品を買いたい」
「疑問点を解消したい」「注意事項を確認したい」といった具体性の高い内容は、ここで定める最終目標を達成するための一要素となります。
また、よりリアルに、個別に設計した例を挙げるとしたら、以下のような形になります。
「手続きは難しそうだが、サポートが頼もしいので、購入に進みたい」
購入後
「親切で丁寧なサポートをしてもらえて嬉しい。今後もこのブランドを購入し続けたい」
クレームへの応対
「今回はトラブルがあったが、事態を重く受け止めてしっかり改善してくれそうなので、今後も取引を続けたい」
また、今回は顧客対応がメインのため、一部分の紹介に留めますが、仕入れ先や代理店などへの対応も同様です。
「なるべく安く、早く、優先的して提供できるようにしていきたい」
代理店
「この商品が売れるように注力していきたい」
このように、「どういう気持ちになって欲しいか」をしっかりと考慮し、最初に適切な目標を設計します。そうすることで、対応方法は大きく変わってきます。
心を動かすための方法
ここからは、顧客対応における目標達成のためのノウハウです。言い換えると、心を動かすための方法です。人の考え方や個性、傾向はそれぞれなので、人の心を動かすことを目標とした際、絶対的な正解はありません。けれども、押さえておくべきポイント、意識すべき点はあります。これらは、メール、電話、対面での打ち合わせ、オンライン会議、様々なシチュエーションに共通するポイントです。
質問に隠れた心理を考える
顧客から質問を受けた場合には、回答の前に少し立ち止まって、質問に隠れた心理を考えてみます。
再度、冒頭の例から考えてみましょう。
「商品Aの購入を検討しています。購入する場合の方法、流れを教えて欲しい」
こういった質問が発生している場合、顧客の心理としては、「商品Aの購入の方法や流れが複雑なのではないか?難しそうだったら面倒だな。」といった心情が含まれている場合があります。
その予想が正しい場合には、「難しそうでない」「面倒ではない」と顧客が感じることができたら、「この商品を買いたい」というゴールに大きく近付けると予想できるので、顧客対応においては、難しくなく面倒ではないことを伝えることが大事になってきます。
「商品Aの購入を検討しています。購入する場合の方法、流れを教えて欲しい」
隠れた心理(仮説1)
「商品Aの購入の方法や流れが複雑なのではないか?難しそうだったら面倒だな。」
顧客対応で意識すべきこと
→ 「難しそうでない」「面倒ではない」と感じてもらうようにする
また、別の予想としては、「購入の方法、流れを確認することで、どれくらいの導入に期間が必要なのか知りたい」といったパターンも考えられます。その場合には、期間の目安を明示することが大事になってきます。
「商品Aの購入を検討しています。購入する場合の方法、流れを教えて欲しい」
隠れた心理(仮説2)
「導入までにどれくらい期間がかかるのだろう?」
顧客対応で意識すべきこと
→ 期間の目安を伝える、希望の導入時期を聞く
隠れた心理は、「なぜその質問をすることになったんだろう?」と、質問に至った経緯や背景を考えることです。質問を受けた際には、回答を準備する前に「質問に隠れた心理」を考えてみましょう。
わかりやすさ
コミュニケーションの中で、顧客の負担はなるべく最小限に留めるべきです。ここでいう顧客の負担とは、説明を聞く(読む)時間や理解のために集中力を使うことです。顧客の負担を減らすためには、「わかりやすさ」がとても大事です。伝える内容が多いときには、特に要注意です。
メールの場合は見出しと箇条書きの活用がポイントです。
■ ご納品までの流れ
ご注文にあたっては、
以下の流れで進めさせていただいています。
1.設置場所確認
2.お見積もり作成
3.オフィス管理会社へ申請
4.日程調整
5.ご納品
■ 注意点
ご注文にあたり、以下の注意点がありますので、
事前にご確認をお願いいたします。
・設置場所の条件によっては、ご導入いただけない場合があります。
・日程決定後のキャンセルは原則お受けできません。
なお、電話や対面で伝える場合は、「結論から話す」という点が大事になってきます。
「ご注文にあたっては、5つのステップがあります。1つめが・・・」
「日程決定後のキャンセルはできません。なぜかというと・・・」
また、専門用語の扱いには要注意です。顧客の知識に応じて、専門用語の使用有無を調整します。顧客の知識がどれくらいあるかわからない場合は、「全く知らない」を前提として、会話を進めます。小学校高学年〜中学生に説明しても、スムーズに理解できるような説明の仕方を実践するよう、常に心がけましょう。
次のアクションをお願いする
購入前の顧客対応においては、必須の項目です。
例えば、今回挙げた例の場合だと、以下のようなメッセージを加える形が適切です。
「一度見積書を作成しますので、こちらの項目についてをお教えいただけますか」
「営業担当より、詳細な案内をさせていただいても良いでしょうか」
「しつこくアプローチする」という意味ではありません。「アテンドし、リードする」という意味です。テンポよく、判断やアクションをお願いし、目的達成のためにリードしていくことはとても大事なことです。
顧客への応対を担当する人が、営業担当ではなくカスタマーサポートの場合には、より一層の注意が必要です。やりとりを最小限に留めたい心理が無意識に働く場合があります。職種に関わらず、最終的な目標をしっかり意識しながらの対応を心掛けていきましょう。
心を込めて対応すること
人の心を動かすために最も大事なことは、心を込めて対応することです。
心を込めて対応することとは、相手の課題解決に一生懸命な気持ちを持つこと、取扱商品に対して自信と愛着を持つこと、相手の役に立ちたいという想いを抱くことです。
また、気持ちを持っているだけでは不十分です。気持ちを明確に伝えることがとても大事です。
誠実な想いを抱き、しっかり伝えていますか?
商品の販売における原点ともいえるこの部分、しっかり実践できていない場面はどの会社でも多いのではないでしょうか。
手段の使い分け
現代は、メール、電話、対面での打ち合わせ、オンライン会議等、複数の手段があります。それぞれ、メリット・デメリットがあるので、場面に応じた使い分けが必要です。
メール
双方が自由なタイミングで内容の確認・返信することができ、じっくり読み直したり後から検索したりすることもできるが、気持ちが共有しにくい点や質疑の解消に時間がかかる等のデメリットがある。
電話
電話は、気持ちの共有や質疑のやりとりが素早くできるが、時間を拘束してしまう点や記録に残らない点がデメリット。
対面での打ち合わせ
お互いに集中した環境でコミュニケーションができるが、日程の調整、準備や移動時間が必要となる。
オンライン会議
対面での打ち合わせには劣るが、集中した環境でコミュニケーションができる。日程の調整、通信環境の準備が必要。
職種により、制約がある場合もありますが、それぞれのメリット・デメリットを理解し、使い分けたり併用したりすることが大事です。
顧客対応の例
以上を踏まえて、顧客対応の方法を見直してみましょう。本記事での例のメール文の場合は以下のような形になります。
ご担当者様
商品Aの購入を検討しています。
購入する場合の方法、流れを教えていただけますか。
xxx様
お世話になっております。
株式会社xxxのxxxです。
商品Aの購入方法について
ご案内申し上げます。
■ 注文から納品までの流れ
ご購入にあたっては、
以下の流れで進めさせていただいています。
1.設置場所確認
2.お見積もり作成
3.オフィス管理会社へ申請
4.日程調整
5.ご納品
■ 注意点
ご注文にあたり、以下の注意点がありますので、
事前にご確認をお願いいたします。
・設置場所の条件によっては、ご導入いただけない場合があります。
・日程決定後のキャンセルは原則お受けできません。
■ 期間の目安
商品Aの納期は、
購入をご要望いただいた後、
1ヶ月程度です。
日程に関するご要望等ありましたら、
柔軟に対応していますので、
ご相談いただけたらと思います。
以上が商品Aの購入の流れと注意点となります。
もしよろしければ、
購入をご検討中の数量を
お教えいただけますでしょうか?
まずは、概算のお見積書を作成させていただき、
金額も踏まえてご検討を頂けたらと思います。
なお、購入にあたっては、
私xxx(自分の名前)が、
責任を持ってサポートいたします!
商品Aはデザイン面と機能面がとても優れていて、
私自身、自信を持っておすすめできる商品です。
株式会社xxx様にもぜひご利用いただき、
商品Aを通して、xxx様(先方の名前)の
お役に立てるととても嬉しいです。
それでは、現在ご検討中の数量のご連絡、
お待ちしております!
引き続きどうぞよろしくお願いいたします!
最初の例とは大きく異なったメール内容になっていますね。「心を動かす」ということにチャレンジしたメール内容になっています。また、以下のような対応を加えても良いです。
「先ほど、ご注文方法と流れについてを記載したメールを送信いたしましたので、ご確認をお願いいたします。ご不明点ございましたら、いつでもご連絡いただけたらと思います。ちなみにですが、現在、数量は何台をお考えでしょうか?」
「かしこまりました。すぐに見積書を作成できますので、後ほどお送りしておきますね。・・・」
続いて、別のパターンの例です。
ご担当者様
商品Bの購入を検討しています。
現在、在庫はありますか。
xxx様
お世話になっております。
株式会社xxxのxxxです。
商品Bは現在、在庫切れとなっており、
現時点、入荷未定となっております。
申し訳ありませんが、
よろしくお願いいたします。
xxx様
お世話になっております。
株式会社xxxのxxxです。
商品Bは現在、在庫切れとなっており、
現時点では次回入荷未定となっております。
誠に申し訳ありません。
なお、商品Bと同機能を持つ
商品C、商品Dに関しては、
現在、充分な在庫があり、
販売可能です。
商品C紹介ページ
https:://xxxx(URL)
商品D紹介ページ
https:://xxxx(URL)
また、もしよろしければ、
お客様のご希望に合う商品を
ご案内させていただけたらと
思います。
価格の上限や、機能、デザイン等、
気にされている点を
お教えいただけますでしょうか?
例:
「2000円前後で、カラーは赤」
「1500円以下で、xx機能があるもの」等
弊社商品を通じて、
お客様のxxxに貢献できれば
大変嬉しく思います。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
返信メールの例を2つ用意しましたので、それぞれの違いを確認してみてください。その際、考えてみて欲しい点は、それぞれの担当者が何を目標に対応を行なっているかという点です。
最も大事なのは「気持ち」
人は購入を判断するとき、商品の機能や価格をベースに「本当に買うべきか」を判断しますが、その判断は、感情に大きく影響されます。費用対効果を重視するBtoBの購買でも、「人の気持ち」は無視できません。
「買いたい」と思っているときは、買うべき理由を念入りに探すようになり、「買いたくない」と思っているときは買うべきでない理由を積極的に探すようになります。また、判断に迷っている場合、応対した担当者の印象が購入可否の「決め手」になる場面も少なくありません。
メールや電話等を中心に、1日の中で多数の顧客に対応する場合には特に「相手の気持ち」を意識する必要があります。いつでも、目的や目標を見失ってはいけません。顧客対応で最も大事なことは、「正しい内容を伝えること」ではなく、「相手の気持ちがどうなるか」です。