売り上げに直結する業務はもちろん、そうでないサポート・管理・制作などの業務でも「作業の効率化」はとても重要です。生産性を向上させて、無駄なコスト(時間・お金)を削減させることは企業活動にとって最重要ともいえる課題です。
「ECRS(イクルス)の原則」とは、業務プロセスを4つの視点から改善していくフレームワークです。元々は製造業の生産性向上を行うために開発されたフレームワークですが、デスクワークや営業、小売業、サービス業等、あらゆる業種、業務での利用が可能です。
ECRSの原則、4つの視点
各視点の概要は次の通りです。
1.Eliminate(エリミネート) 排除(無くせないか)
業務の目的や最終目標を見直し、不要な業務・なくせる業務を考えます。業務の最終的な目的を再定義した上で、必要のない工程は排除しましょう。
2.Combine(コンバイン) 結合(一緒にできないか)
複数の業務を同時に処理できないかを考えます。同時に行える作業、まとめて行うことができる作業は、統合して効率化を計りましょう。
3.Rearrange(リアレンジ) 交換(順序を変更できないか)
業務プロセスの処理順序を変更し、効率の改善が可能かを考えます。工程を変更することで、大幅に時間を削減できるケースがあります。
4.Simplify(シンプリファイ) 簡素化(単純化できないか)
業務の一部を省略しても、同等の成果がつくれないかを考えます。時間の短縮はもちろん、精神的な負担や肉体的な負担も削減可能です。
それぞれの詳細と具体例
続いて「ECRSの原則」の詳細と具体例をみてみましょう。
1.Eliminate(エリミネート) 排除(無くせないか)
「生産性を高め、売り上げを拡大させる必要がある!」そんな風に考えている時はどうしても、作業を増やしてしまう傾向があります。でもまず必要なことは、ひとつひとつの業務の目的を再確認し、不要な作業を排除することです。
特に、長い歴史を持つ企業、長年にわたり取り組んでいる事業には、不要な業務が沢山あります。当時は必要だったけれども現在は必要でない業務、以前の上司の進め方においては必要だった業務、なんとなく慣例化した業務等、理由は様々です。
排除の判断に迷ってしまった場合は、「業務の目的」と「誰にとって必要か」を意識してみてください。
「Eliminate(エリミネート) 排除」の具体例
「日報」「レポート作成」「報告書」等の書類作成業務を排除した
毎日必ず作成しなければならないとされていた日報だが、誰が何のために日報を必要としているのか曖昧。部下は30分程かけて作成しているにも関わらず、上司は毎日欠かさず見ているわけではなかった。日報の目的・必要性を再検討し、1日1回から週に1回へ変更。項目も大幅に削減し、半分以下の時間で作成できるようにフォーマットを変更。月間10時間も費やしていた作業(1日30分/20日稼働)が1時間になった。
「会議」を排除した
毎週1回、5人が集まって約1時間の定例会議を実施していたが、形式的な会議で、メールでの報告や関係者のみへの報告・相談で完了できる内容だった。月1回に変更し、メンバーも3人に変更。月間トータルで20時間(1時間x4回x5人)費やしていた定例会議だったが、3時間(1時間x1回x3人)に変更できた。
作業人員を削減した
2人がかりで行っている点検作業だったが、速さ・作業の品質ともに、実際は1人でも可能だった。作業人数を変更することで、別の作業にかけられる時間が増えた。
広告・宣伝を削減した
毎月実施しているメディアへの広告入稿。効果の検証が行われないまま、慣例で取り組んでいた。効果を測定したところ、そのメディアを介しての集客はほぼ無く、入稿を辞めるようにした。制作時間・費用等、大幅にコストの削減ができ、別の集客手段を検討するに至った。
過剰なサービス、機能の追加をやめた
顧客に喜ばれる、他社との差別化になる、と思っていたサービス・機能だったが、アンケートの実施や現場スタッフのヒアリングにより、顧客は全く価値を感じていなかったことが判明。過剰なサービス・機能を廃止し、現場スタッフ・開発スタッフの負担とそれにかかる費用を減らすことができた。
買い出しをやめた
週に1度、事務スタッフが業務に必要なものを買い出しに行っていたが、ネット注文に変更。1回おおよそ1時間かかっていた買い出しが10分に。月間トータルで4時間(1時間x4回)が40分になった。
2.Combine(コンバイン) 結合(一緒にできないか)
複数の業務を一つにまとめてしまうことで、大きく効率を改善することが可能です。「Combine(コンバイン) 結合」のアイデアは、部門や担当間の壁を超えて議論することでアイデアが生まれやすくなります。他部署や別の担当者が担っている役割・業務を確認すると、重複している業務が発見できることがあります。
「Combine(コンバイン) 結合」の具体例
「仕上げ」「検品」を同じ場所で実施するようにした
これまでは製品が出来上がる場所と検品を実施する場所が別々だったが、同じ場所で実施することに変更。製品を運ぶ作業がなくなり、製品完成までの工程がよりスムーズになった。
会議を同時開催にした
チームAで行われていた会議と、チームBで行われていた会議をまとめることにより時間を削減した。また、マネージャーと店長で行っていた会議を、マネージャー、店長、スタッフで行い、伝達時間を削減した。
複数人が作成していた書類を一人が作成することにした
複数部門が集まる会議を、それぞれの部門のスタッフが独自に議事録を作成していた。各部門での作成をやめ、会議に出席している1名のみが作成にするようにした。
発注作業をまとめて実施するようにした
カテゴリごとに発注作業を行う担当者が分かれていたが、全ての作業を1人で実施しても、それにかかる時間は現在とほぼ変わらないことが話し合いによりわかった。全てを1人が行うようにした。
1つずつ実施していたものを複数まとめて実施した
新規顧客のデータ入力を、担当したスタッフがその場で都度システムに入力していたが、1日の最後に1人のスタッフが全スタッフ分をまとめて入力するというルールに変更。全スタッフの時間が大幅削減できた。
3.Rearrange(リアレンジ) 交換(順序を変更できないか)
「A→B→C」の順に行っていた作業を「B→A→C」にすることにより、作業効率の改善ができないかを検討します。業務フロー、スタッフの1日のスケジュール、月間スケジュールを見直してみましょう。
「3.Rearrange(リアレンジ) 交換」の具体例
「上長によるチェック」を前倒しにした
これまでは「設計→制作→上長による確認・許可→修正→完成」という順序で進めていた作業だが、「設計→上長による確認・許可→修正→制作→完成」の順に変更。確認作業を前倒しで実施することにより、上長指示による修正の時間を大幅に削減できるようになった。
営業ルートを見直した
トータルの移動距離が最も短くなるように、営業ルートを見直した。日によっては1時間以上の短縮ができるようになった。
順序変更によるマインドの変化
1日の最後(通常業務の後)に実施していた会議を、朝一番(通常業務の前)に実施。ダラダラと間延びして不要な残業を強いていた会議が、時間を意識したスムーズな会議になった。通常業務を控えているため、規定時間内に会議を終わらすという意識を出席者全員が持つようになった。
4.Simplify(シンプリファイ) 簡素化(単純化できないか)
丁寧に実施しすぎている業務や、体裁をこだわり過ぎている業務を見直し、簡素化しても同等の成果を生み出せる業務を見つけていきます。クラウドサービス、スマートフォン等の新しいテクノロジーを利用することも、簡素化の手助けになります。
「4.Simplify(シンプリファイ)簡素化」の具体例
報告・連絡を簡素化した
これまでメールで行っていた報告・連絡の一部をスマートフォンアプリ「LINE」で実施。体裁にこだわらず、コミュニケーションを簡素化することにより、スピーディーな情報共有が可能になった。
データ入力項目を見直した
これまで複数の数値を入力していた項目を見直し、不要な項目をなくした後、関数を設定。1つの数値を入れると複数の数値が自動計算されて入力されるようになり、作業の簡素化に成功した。
ファイル作成・共有方法を見直した
これまでWord、Excelで作成した資料の一部をGoogleDrive(Googleドキュメント、Googleスプレッドシート)で作成。共有や情報更新がスムーズになり、複数人による編集、リアルタイムな情報の閲覧が可能になった。
発表・プレゼンテーションを簡素化した
会議での発表・プレゼンテーションの一人当たりの持ち時間を短くするとともに、過剰なプレゼンを用意しないように指導。発表内容を準備する時間、PowerPoint等の資料を作成する時間が大幅に削減するとともに、それぞれの発表・プレゼン内容の要点が明確になった。
テンプレートを標準化した
見積書、納品書、請求書、企画書、報告書、あらゆる資料のテンプレートを準備し、標準化した。全員の書類作成時間が短縮されたと同時に、フォーマットの統一により上長のチェックがスムーズになった。
ECRSの原則、検討の順序
各項目の検討は、その名称の並び順の通り、「E(排除)→C(結合)→R(交換)→S(簡素化)」の順に行います。「過剰サービスを改善」等は「E(排除)」「S(簡素化)」2つのフェーズで登場したりと、検討内容が一部重複してしまうこともありますが、それは問題ではありません。2回登場した場合は、2回検討しましょう。それぞれの視点で見つめ直すことが重要です。
業務効率の改善に終わりは無く、その時に最善の業務フローも、3年後には効率の悪い業務フローであったりします。最適な形は、内部・外部問わず、様々な環境によって変化していくものなのです。「ECRSの原則」という便利なフレームワークを用いて、ぜひ定期的な見直しを実施してみてください。