「スキル」とは何でしょう。「社会人として活躍するためのスキルにはどのようなものがありますか?」そんな質問を受けたとき、どのような返答をしますか?
いくつか思い浮かぶと思います。きっと、そのどれもが間違ってはいないと思います。
さて、ここでは、スキルには3つのカテゴリーがあるということを紹介します。
カッツモデル
こちらの図は「カッツモデル」と呼ばれ、リーダーシップ・マネジメントを学習する際によく登場する図です。ハーバード大学教授のロバート・カッツさんという人がつくったモデルなので、カッツモデルです。
縦軸が階層、横軸がスキルです。それぞれの階層でどのようなスキルが必要になるかを分かりやすく示した図として有名です。
階層が下であるほど、テクニカルスキルが重要で、コンセプチュアルスキルの必要性は薄れます。一方、階層が上がるほど、コンセプチュアルスキルの重要性が増し、テクニカルスキルが必要となる場面が少なくなります。
ビジネスパーソンに必要なスキルを大きく3つに区分した点でも分かりやすい図になっています。この図から読み取って欲しいことは以下の点です。
・それぞれのスキルの重要性は階層ごとに異なる。
それでは、各スキルがどのようなものかを詳しく見ていきましょう。
テクニカルスキル
テクニカルスキルとは、実務の処理能力や業務に関する知識です。例えば、プログラマーにとってはプログラミング能力、経理担当者にとっての会計・財務の知識等です。一般的な事務処理能力(文書作成、表計算)もテクニカルスキルに該当します。
「スキルとは何ですか」という問いに対して、挙げられた答えの多くはこのテクニカルスキルに該当するのではないでしょうか。
一般従業員にとっては、このスキルの種類や処理速度、知識の深さが企業への貢献度や評価に大きく関わってきます。
ヒューマンスキル
特殊な仕事を除き、一般的には仕事を進める上で、何らかの他人との関わりが発生します。ヒューマンスキルとは、対人関係能力とも呼ばれ、他人とのコミュニケーション、交渉、調整、協働をスムーズに行う能力のことです。
他人に期待する行動を取ってもらうことができる人、必要な支援が得られるように働きかけることができる人、また、他人のモチベーションを高められる人、「この人と一緒に働きたい」と思われる人は、ヒューマンスキルが高い人です。
カッツモデルでは、ヒューマンスキルは全ての階層で重要なスキルとされています。
コンセプチュアルスキル
このスキルが最も理解しづらいかもしれません。コンセプチュアルスキルは、抽象化する能力です。抽象化とは「具体化」の逆です。具体的な事象をぼんやりさせる、といった意味ではなく、本質を見つける思考です。
例を見てみましょう。
例:社長が従業員へ、「玄関のドアが汚れているから拭いておいて欲しい」という指示を出した。
スタッフAさんの行動
・玄関のドアを拭いた。
スタッフAさんの思考
「指示されたことをしっかりやらないと」
スタッフBさんの行動
・玄関のドアを拭いた。
・床の汚れがないかも確認し、汚れている箇所を清掃した。
スタッフBさんの思考
「指示されたことをしっかりやらないと」
「社長がなぜその指示を出したかというと、玄関はきれいなものであるべきと思っているからだろうな」
スタッフCさんの行動
・玄関のドアを拭いた。
・床の汚れがないかも確認し、汚れている箇所を拭いた。
・入り口から会議室までの通路の汚れを確認し、汚れている箇所を清掃した。
スタッフCさんの思考
「指示されたことをしっかりやらないと」
「社長がなぜその指示を出したかというと、玄関はきれいなものであるべきと思っているからだろうな」
「なぜ、玄関がきれいなものであるべきというと、お客様の印象を良くしたいからだな。ということは玄関だけでなく、お客様の目に触れるところは全て綺麗にするべきだな」
スタッフDさんの行動
・玄関のドアを拭いた。
・床の汚れがないかも確認し、汚れている箇所を拭いた。
・入り口から会議室までの通路の汚れを確認し、汚れている箇所を清掃した。
・汚れが放置されないよう、出社するメンバーで分担して毎日清掃ができるようなスケジュールを作成し、社長に提案した。
スタッフDさんの思考
「指示されたことをしっかりやらないと」
「社長がなぜその指示を出したかというと、玄関はきれいなものであるべきと思っているからだろうな」
「なぜ、玄関がきれいなものであるべきというと、お客様の印象を良くしたいからだな。ということは玄関だけでなく、お客様の目に触れるところは全て綺麗にするべきだな」
「そもそもなぜ、このように汚れがある状態で放置されているんだろう。この問題を解決する方法を考えてみよう」
例の並び順は、コンセプチュアルスキルが低い順です。けれども、Aさんも決して間違っているわけではありません。指示通り、適切な対応をしています。
コンセプチュアルスキルが高いと、課題の特定と改善策を打ち出せたり、新しい企画やサービスを生み出せたりします。この例からも、階層が上に行くほどにコンセプチュアルスキルが重要になってくるということが理解できるのではないでしょうか。
ちなみにですが、対人関係においては、コンセプチュアルスキルが高いと、「気が利く人」「少し話せば、全部わかる人」という評価を得られるようになります。
カッツモデルは正しいのか
実は、カッツモデル登場は1955年。現代でもよく用いられるこの図ですが、とても古いんです。
当時と比較すると、現代は、実務を行いながらマネジメントを行うプレイングマネージャーが増加し、ボトムアップ(下の階層から上の階層への提案)による業務改善や階層を問わないイノベーションが重要視されています。
上の階層でもテクニカルスキルが重要となり、下の階層でもコンセプチュアルスキルが求めらるようになっているんですね。
特に、オフィスワーカー、総合職、企画職といったホワイトカラーの職種においては、役職のない若いメンバーにもコンセプチュアルスキルが求められています。
コンセプチュアルスキルの伸ばし方
抽象化することで本質を見極めるコンセプチュアルスキル。このスキルが高い人材は、どのような組織でも重宝されます。行動力が伴っていることはもちろん最低条件ですが、コンセプチュアルスキルが高い人材は、例え転職しても、別の業界でゼロからスタートしたとしても、確実に重宝されます。
現代のビジネスパーソンにとって、非常に大事なコンセプチュアルスキル。その伸ばし方は、以下のとおりです。
1.色々なことに興味を持ち、学習する
経済・経営を中心に、あらゆる学習します。やっぱりまずは知識です。知識の量と深さは武器です。時事ニュースに関しては、「WBS(ワールドビジネスサテライト)」というTV番組がおすすめです。「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」といった番組からも、企業経営に関する沢山の学びを得られます。Youtubeでもビジネス系のチャンネルは沢山あります。(根拠のない自己啓発系の情報には要注意。)
豊富な知識は、視野を広げて、回答の引き出しを増やします。
2.あらゆることを応用できないか考える習慣をつける
例えば、好きなスポーツを観戦した時、好きなアーティストのライブに参加した時、色々な体験や発見があるはずです。
サッカーの試合を見たときなら、攻めに転じている時と守りに徹している時があり、オフェンスの人数、ディフェンスの人数をどのように変えていたか。監督の判断や選手の動き、試合結果を踏まえ、自分たちのビジネスで置き換えたときに、売上を追求するフェーズとサポートを追求するフェーズ、予算や人員が限られた中でどのように人員構成を変更するべきか等、色々な思考を試みることができます。
アーティストのライブであれば、どのような行動や言葉でオーディエンスの熱を高めているのか、バンドとどのようなコミュニケーションを取っているのか、そもそも何故こんなに沢山の人がこのライブに集まっているのか、色々なヒントがありそうです。
3.ロジカルシンキング・クリティカルシンキングを学ぶ
ロジカルシンキングは論理的に考える思考。「こうなったから、こうなっている。」「AとBとCは、全部Zになっている。つまりZが大事だ」という感じです。
クリティカルシンキングは批判的に考える思考です。「なぜそうなるのか」「本当にそうなのか」を追求する思考です。
いずれもコンセプチュアルスキルを働かせるうえで、不可欠なスキルです。これらは、書籍、動画、色々な方法で学べます。
4.いろいろなことにチャレンジする
学ぶことはとても重要ですが、やはり大事なことは実践することです。ロジカルシンキング・クリティカルシンキングを数時間かけて学んでも、日々の中で実践しない限り、何の意味もありません。
様々な経験を通して、反省・改善を繰り返していくことで、コンセプチュアルスキルを伸ばしていくことができます。
スキルの種類を知り、コンセプチュアルスキルを意識しよう
繰り返しにはなりますが、現代は、若いメンバーや役職のないメンバーでもコンセプチュアルスキルが必要です。現場レベルからの改善、上司への提案、独自の判断、後輩へのアドバイス・指示等、コンセプチュアルスキルが必要な場面は多数あります。仕事内容によっては、若いメンバーがリーダーシップを取る場面もあります。
コンセプチュアルスキル、難しそうですか?
難しいと感じる場合でも、あまり物怖じする必要はありません。
本質を見抜くという点では、ベテランの経営者でも、たくさん失敗します。見抜けないから業績が落ちたり、事業撤退に陥ったりします。(ただし、失敗から本質を学び、次の行動や判断に活かそうとします。)
本質を見抜くというのは、経験豊富なベテランでも非常に難しい作業です。難しそうと感じることは当然のことで、できないかもと感じるのはとても普通のことです。
けれども、チームの全員がコンセプチュアルスキルの向上を目指し、本質が何かをディスカッションし、チャレンジを重ねることができるとしたら、そのチームはとても未来に希望が持てるチームではないでしょうか。
コンセプチュアルスキルの向上に関心を持ち、取り組んでみることは、所属するチームにとっても、自身の今後のキャリアにとっても、とても価値あることです。