新しい組織に加わり、リーダーシップを発揮する必要がある場合、どのようなステップが必要でしょうか。
現在のビジネスシーンでは、若手社員であっても、上司の指示にただ従うだけでなく、若手社員自身がリーダーシップを発揮して企画を進める場合があります。
今回は、入社や異動により新しいチームに参加した後、リーダーシップを発揮できる環境が整うまでのステップを紹介します。
信頼性蓄積理論
(1970年代)エドウィン・ホランダー
STEP1 同調性と有能性を示す
信頼がまだない状態での、企画推進はとても困難です。権限に頼り、強引に進めることも可能ですが、不満を浴びながら全行程を指示することになります。信頼がない状態では、指示を聞いてくれることはあっても、自主的・献身的に取り組んでもらうことは難しく、想定以上の成果は得られません。
信頼を獲得していくためのファーストステップは、同調性と有能性を示すことです。
同調性
すでに形成されているチーム内の規範、風土、文化に理解を示し、共感しながら、現状を確認していく必要があります。ネガティブな意見をすることには細心の注意が必要です。組織に加わったばかりの人から、現在の仕事の進め方や価値観について、否定的な見解を伝えると、既存のメンバーからの拒否反応が強くなります。
一見無意味と思える工程があったとしても、即座に不要と判断するのではなく、なぜそれが行われているかを慎重に確認し、工程を変更するタイミングを見極めます。既存のメンバーたち自身も無駄だと感じていることはありますが、言語化できていない色々な事情や組織的なしがらみがあり、本人達ももどかしい状態で続けているようなケースもあります。
本質的な理由を確認するためにも、否定的な意見を伝える場合には、リラックスして意見交換ができる状態が大切です。
有能性
チームのミッションに対し、自分の実力を示していく必要があります。管理者として有能であったとしても、プレイヤーとしての有能さが伝わらない限り、尊敬を得ることは困難です。
全ての分野において、有能性を示す必要はなく、チームのミッションに関連する特定の分野で有能さを示します。営業、クリエイティブ、数値の管理、キーマンとの交渉等、自身が得意な分野で実力を示し、チームのメンバーに能力を知ってもらう必要があります。
突出した能力がない場合には、「とにかく一生懸命頑張る」といったパーソナリティも、有能性の一つです。
STEP2 信頼を蓄積
同調性と有能性を示しながら、信頼を蓄積していきます。同時にチームのメンバーの考え方、価値観を理解し、共感を示しながら、同じミッションに取り組む仲間であること(敵ではないこと)を伝えていく必要があります。
STEP3 集団の牽引や変革を期待される
信頼が一定以上、蓄積されてきた後に、組織やプロジェクトのリーダーとして全員から認められることになります。一方で、頑なにリーダーシップの発揮に抵抗するメンバーがいる場合もあります。コンフリクト処理モデルや変革への抵抗を参考に、対応方法を検討します。
STEP4 リーダーシップを発揮
リーダーとして認められ、チームの牽引や変革を期待されている状態であれば、各メンバーの協力度合いもより積極的なものになり、チームを牽引しやすい状態になります。
期待に応えられなかった場合、一度信頼の蓄積を失うことにはなります。その場合には、STEP1からやり直しです。失敗はよくあることです。反省はしつつも、落ち込み過ぎずに再チャレンジしましょう。
体制が整うまでの時間はチームによって様々
信頼を蓄積し、リーダーシップを発揮するまでの期間は、チームによって様々です。柔軟性が高く、変化を歓迎するメンバーばかりの組織であれば必要な時間は短くなり、変化を嫌うメンバーが多いと時間がかかります。
推進する企画やプロジェクトの規模によっても、必要な信頼の蓄積量は変わります。小規模な企画であれば、数名からの信頼を獲得していれば十分ですし、大きなプロジェクトの推進や、事業部の発足等であれば、相応の時間が必要になってきます。
また、信頼の蓄積がないままで、企画を押し進めなければいけない場面もあります。ビジネスシーンの多くの場面では、信頼蓄積のために企画や事業の推進を待つことはありません。物事を進めながら、その過程で信頼を蓄積していく必要があります。
リーダーシップを真に発揮するには、仲間からの信頼獲得がとても重要です。全ての工程に指示を出し、権限の力だけで物事を進めていく方法では、期待を超えた成果が生まれたり、メンバーの行動からイノベーションが発生したりといったことは起きません。メンバーそれぞれが個性を発揮し、思考しながら、自走してもらいたい場合には、一定以上の信頼を蓄積した状態で、リーダーシップを発揮する必要があります。
信頼関係構築には、相応の時間が必要
上の図は、リーダーシップ形成のライフサイクルを示したものです。
金銭的関係(仕事だからコミュニケーションをとる)といった「他人」という関係から始まり、徐々に「知人」「パートナー」といった関係になります。最終的には、金銭的関係を超越した関係になることができます。
よくよく考えれば当然のことですが、人と人が信頼関係を築くには、相応の時間が必要です。
いきなり「信頼し合えるパートナー」になることはできません。スピーディーな展開が求められるビジネスシーンだからといって、信頼関係がすぐにできるわけではないのです。大事なことは、その事実を踏まえた上で「構築までの時間をどのように短縮するか」という部分です。
信頼関係が成熟すると、メンバーの意識や考え方に大きな変化が起き、パフォーマンスが飛躍的に向上します。仕事への満足度・充実度も向上します。ぜひ、「信頼関係とは何か」を考え、良いチームづくりにトライしてみてください。